「時間が経てば忘れられる」「乗り越えなければいけない」と思われがちなペットロスですが、実際はそう単純なものではなく、無理に気持ちを抑え込むことでかえって心の負担が大きくなるケースもあります。
そんな悲しみに寄り添っているのが、一般社団法人日本ペットロスグリーフケア協会です。

一般的なカウンセリングに加え、腸活・アロマテラピー・マインドフルネスを組み合わせた独自のアプローチで、心と身体の両面からサポートを行っている同協会。2024年の設立以来、これまでに約280名の相談に寄り添ってきました。
今回は、同協会代表の森下洋安さんに、協会設立のきっかけやグリーフケアへの思い、今後めざす社会の姿について詳しく伺いました。
ペットとの別れや、その後の悲しみに安心して向き合うための取り組みを、ぜひご覧ください。
一般社団法人日本ペットロスグリーフケア協会 代表理事 森下洋安氏
ペットロスを「我慢するもの」から「ケアするもの」へ
——協会設立のきっかけを教えてください。森下さん:きっかけは、私自身がペットロスを経験したことでした。大切な家族だったペットを亡くし、想像以上に深い悲しみや喪失感に襲われたんです。
その苦しみを少しでも和らげる方法はないかと模索する中で、ペットロスに関する資格や論文を数多く学び、カウンセリングの知識や資格も取得しました。
そして調べるほどに、自分と同じように苦しんでいる人がたくさんいることを知り、「一人でも多くの人に寄り添える場所をつくりたい」という思いから、2024年に本協会を立ち上げました。
——協会では、どのような理念を大切にされていますか?
森下さん:私たちが大切にしているのは、「悲しみを我慢するものから、ケアするものへ」という考え方です。
ペットロスは、「時間が経てば忘れられる」「乗り越えなければいけない」と思われがちですが、実際はそう簡単なものではありません。
無理に悲しみを消そうとすると、後悔や自責の気持ちが残り、かえって心の負担が大きくなることもあります。だからこそ、悲しみを否定するのではなく、その気持ちに寄り添いながら少しずつ心を整えていく。
大切な存在への愛情を抱えたまま、もう一度自分らしい日常を取り戻すことが、グリーフケアの本質です。
ペットロスは我慢するものではなく、ケアするものだと語る森下氏
ペットロスで心と身体に起こる変化とは
——ペットロスとは、どのような状態を指すのでしょうか?森下さん:ペットロスとは、大切なペットとの死別や離別によって、心だけでなく身体にも大きな反応が現れる状態のことです。
「悲しい」「寂しい」という感情だけではなく、「もっと何かできたのではないか」という後悔や自責の念など、さまざまな感情が複雑に入り混じります。
その影響で、不眠や不安、無気力など、心身にさまざまな変化が現れる方も少なくありません。
——ペットロスになりやすい方の傾向はありますか?
森下さん:近年は、ペットを家族の一員として迎える方が増えたことで、ペットロスに悩む方も年々増加しています。
特に相談者の傾向として多いのは女性で、全体の約8割を占めています。なかでも、一人暮らしの女性や高齢の女性は、悲しみを一人で抱え込みやすい傾向があると感じています。
家族との時間をペットと深く共有している方ほど、別れによる喪失感も大きくなりやすいです。
人口や飼育頭数は減少傾向にありますが、ペットとの絆は以前よりも深くなっています。
それに伴い、ペットとの別れによる悲しみを一人で抱える方への支援も、ますます重要になっていると感じています。
——ペットロスは、時間が経ってから症状が現れることもあるのでしょうか?
森下さん:実は、亡くなった直後だけがペットロスではありません。
「半年後に急に涙が止まらなくなった」「1年後に無気力になり、原因をたどったらペットとの別れだった」というケースもあります。
本人も気づかないまま心に悲しみを抱え続け、後になって体調や精神状態に影響が出ることもあるんです。
だからこそ、「もう時間が経ったから大丈夫」と無理に気持ちを押し込めるのではなく、自分の悲しみに気づき、向き合うことが大切ですね。
——日本では、まだペットロスへの理解が十分ではないと感じる場面もありますか?
森下さん:そうですね。欧米の一部企業では、ペットが亡くなった際に利用できる「ペットロス休暇」を設けている例もあり、気持ちを整理する時間が社会的にも認められています。
一方、日本ではペットは家族の一員になっているにもかかわらず、「たかがペット」と受け止められてしまうことも少なくありません。そのため、悲しみを打ち明けられず、一人で抱え込んでしまう方がとても多いです。
まずは「ペットロス」という心の反応があることを、社会全体に知ってもらうことも、私たちの大切な役割だと思っています。
心・腸・香りでアプローチする独自のグリーフケア
——協会では、どのようなグリーフケアを行っていますか?森下さん:私たちが行うグリーフケアは、カウンセリングだけで終わらないことが大きな特徴です。
カウンセリングでは、相談者のお話を丁寧に伺いながら、気持ちの整理を支えていきます。本協会では、対話による支援に加え、心と身体の両面から寄り添うことを大切にしています。
そこで、カウンセリングに加えて、腸活・アロマテラピー・マインドフルネスを組み合わせ、心と身体の両面からサポートしています。
また、本協会のある長崎県長崎市で、ペット同伴OKの「腸活カフェ」を運営しています。
心身の不調が強く、日常とは異なる環境でゆっくり過ごしたい方には、カフェの2階にあるペット同伴可能な宿泊施設に、一定期間滞在していただくこともあります。
腸活メニューを食べ、アロマテラピーやマインドフルネスを体験し、公園を散歩しながら軽い運動をするなど、環境そのものを変えることで心身のリフレッシュを図っています。
——なぜ、心のケアだけでなく「腸活」にも着目されたのでしょうか?
森下さん:理由は、脳と腸がとても深くつながっているからです。「脳腸相関」と呼ばれるように、腸内環境と心の状態との関連についても、さまざまな研究が行われています。
緊張するとお腹が痛くなる方がいるように、脳と腸は互いに影響し合っているんですね。
私は以前、健康食品の商品開発に携わっており、20年以上前から腸内細菌について学んできました。その知識をグリーフケアに生かし、発酵食品だけではなく、食物繊維や質の高い糖質も含めた食事で腸内環境を整えることを大切にしています。
——心と身体を一緒に整えることが、グリーフケアにつながるのですね。
森下さん:そうですね。ペットロスの方は、常に不安や緊張状態が続いていることが多いです。
だからこそ、心だけをケアするのではなく、呼吸や姿勢、香り、食事、生活習慣まで含めて整えていくことで、少しずつ平常心を取り戻していただけるようサポートしています。
私たちが目指しているのは、悲しみを消すことではなく、「安心して悲しめる状態」をつくり、その先で前を向けるよう寄り添うことなんです。
心と身体の両面から寄り添うことを大切にしている
280名に寄り添ってきた協会の活動
——現在は、どのような方から相談が寄せられているのでしょうか?森下さん:2024年の協会設立以来、これまで約280名の方からご相談をいただいています。
ホームページからのお問い合わせはもちろん、「知人に紹介されて」「医療関係者から聞いて」といった口コミで来られる方がとても多いですね。
特に、歯科や薬剤師、看護師など医療従事者の方からのご相談も多く、理論に基づいたグリーフケアという点に、共感していただいているように感じています。
——相談者の皆さんからは、どのような声が届いていますか?
森下さん:一番多いのは、「自分だけがおかしいと思っていました」という声です。
ペットロスは周囲に理解されにくいため、「こんなに悲しんでいるのは自分だけ」「誰にも相談できない」と孤独を抱えている方が本当に多いんですね。
私たちは「安心して悲しめる場所」を提供することを大切にしています。悲しみを我慢する必要はないんだと知るだけでも、心が軽くなる方はたくさんいらっしゃいますね。
——特に印象に残っている相談者のエピソードを教えてください。
森下さん:忘れられないのは、50代男性の相談者です。ペットを亡くされて2年以上経っていたのですが、それでも毎日涙が止まらず、「自分は精神的におかしいのでしょうか」と相談に来られました。
仕事中にも突然涙があふれ、ご家族にも心配をかけまいと、一人で悲しみを抱え続けていたそうです。
カウンセリングに加え、腸活やアロマテラピー、マインドフルネスを取り入れながら約半年間サポートしたところ、悲しみが消えたわけではありませんが、「やっとあの子に『ありがとう』と言えるようになりました」と穏やかな表情で話してくださいました。
グリーフケアは、悲しみをなくすことではなく、感謝や愛情へ少しずつ気持ちをつなぎ直すことだなと実感しています。
AIアプリの開発で、予防ケアという新しい選択肢を
——今後、さらに力を入れていきたいと考えている活動について教えてください。森下さん:現在、一番力を入れているのはAIを活用したグリーフケアアプリの開発で、既に特許を出願しています。
これまではカウンセリングを中心に、一人ひとりと向き合うサポートを行ってきましたが、24時間いつでも相談できる環境があれば、夜中に突然悲しみが込み上げてきた時にも寄り添うことができます。
重症の方は対面でのグリーフケアが必要ですが、軽度の方や「これからペットとの別れが心配」という予備軍の方にも、気軽に利用できるサポートを届けたいと考えています。
——グリーフケアは、亡くなってからではなく「その前」からできることもあるのでしょうか?
森下さん:私たちは、ペットロスになってから支援するのでは遅い場合もあると考えています。
例えば、犬の平均寿命は15歳前後ですが、13歳頃になると「あと何年一緒にいられるんだろう」と不安を抱える飼い主さんが増えてきます。
なので、その段階から心の準備や正しい知識を持つことで、別れを迎えたときに生じる悲しみと向き合う助けになる可能性があります。
「いつか来る別れ」を恐れるのではなく、大切な時間をより豊かに過ごすための準備をすることも、私たちが伝えたいグリーフケアの1つです。
——将来的に、協会はどのような役割を担っていきたいと考えていますか?
森下さん:私たちが目指しているのは、ペットロスを「我慢するもの」から「ケアするもの」へ社会の認識を変えていくことです。
ペットは今や家族の一員です。だからこそ、その別れについても社会全体で考え、医療・福祉・保険会社などさまざまな分野と連携しながら、正しいグリーフケアの知識を広めていきたいと思っています。
まずは、ペットロスによってさまざまな心身の反応が現れることを、一人でも多くの方に知っていただくこと。
その積み重ねが、日本の環境を少しずつ変えていくと信じています。
——最後に、協会の活動に関心を持っている方へメッセージをお願いします。
森下さん:私たちは、悲しみを否定したり、無理に忘れさせたりすることはしません。大切なのは、悲しみに寄り添いながら、その人のペースで少しずつ前を向けるようお手伝いすることです。
そして、ペットとの別れは「関係性の終わり」ではないと考えています。亡くなったからといって愛情がなくなるわけではなく、その子との思い出や絆はこれからも心の中に生き続けます。
悲しみを無理に笑顔へ変えることではなく、悲しみの中にある愛情を、もう一度笑顔につなげること。
ペットを深く愛したからこそ生まれた悲しみに、一人で向き合う必要はありません。安心して悲しめる場所があることを、必要としている方へ届けていきたいです。
——森下さん、素敵なお話をありがとうございました。
悲しみの中にある愛情を、もう一度笑顔につなげたいと話す
悲しみに寄り添うグリーフケアの形
ペットとの別れは誰にでも訪れるものだからこそ、日本ペットロスグリーフケア協会のように、心と身体の両面から寄り添ってくれる存在の価値は、今後さらに高まっていくのではないでしょうか。大切なペットと暮らしている方も、今まさにペットロスと向き合っている方も、悲しみに寄り添ってくれる場所があることを、ぜひ知っておいてください。
つらいときは一人で抱え込まず、誰かの力を借りることも大切です。
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