情報はネットにあふれているのに、人はなかなか変われない。知識として知っていても、実際に行動を変え、継続できる人は少数です。
2025年3月に設立された一般社団法人ライフスタイル医学コーチング協会は、ハーバード大学医学部の栄養学講座をルーツに持つ「ライフスタイル医学」と、行動変容を促す「コーチングスキル」の2つを組み合わせた養成講座を展開しています。
このスタイルは、日本ではまだほとんど例のない取り組みです。
今回は代表理事の舘 敬悦さんに、立ち上げの背景から講座の特徴、そして「持続可能な健康づくりの専門家」を育てることへの思いを伺いました。
肥満率が過去最高に —— 「知っていても変われない」社会の現実
——今の日本の健康状況をどうご覧になっていますか?舘さん:日本では生活習慣病が深刻な社会課題となっており、その多くが食事や運動・睡眠といったライフスタイルの改善によって予防・改善できることが、科学的に明らかになっています。
2025年は成人の肥満率が過去最高になりました。現代は、海外からファストフードが入ってきて、安くて美味しいお菓子が増えて、体に良くないものが簡単に手に入るようになっています。
日本人はもともと腹八分目の食文化があって、そんなに太りやすい民族じゃなかったんですよね。

——情報は多いのに、なぜ肥満率が過去最高になったのでしょうか?
舘さん:「何が健康に良いか」を知識として知っていても、実際に行動を変え、継続することは難しいんですよね。これが、今の日本の健康課題につながっていると感じています。
健康経営優良法人という制度も生まれ、企業が社員の健康に力を入れる時代になってきました。でも現場では「分かっていても生活を変えられない」「続かない」という声が絶えません。
世界300人中、日本人はたった5人。持続できる健康づくりを広めたい
——協会を立ち上げられた経緯を教えていただけますか?舘さん:パーソナルトレーナーの資格を取り、武道や格闘技もやっていました。ですので、栄養や運動への関心は昔からあったんです。
2023年に、ハーバード大学医学部の栄養学講座をSNSで偶然目にしました。「持続できる食事プランの作成」を学びたいと思い、受講したことがきっかけです。 そこでライフスタイル医学という分野があることを知り、さらに勉強を深めていきました。
世界から約300人が受講していたのに、日本人はたった5人ほど。受講してみると内容がものすごく良かった。「これを日本に広めたい」と強く思いました。

——日本には知られていない分野なのでしょうか?
舘さん:アメリカでも正式にライフスタイル医学会が発足したのが2004年、日本でも社団法人としてライフスタイル医学会が発足したのが2025年と、まだまだ新しい分野なのです。私どもが「ライフスタイル医学コーチ」という名称で商標登録が取れたのも、日本ではまだ知られていない、新しい、分野だったからです。
日本の企業も社員の健康を重視する時代になってきているので、健康に関する確かな知識を、行動に移せる言葉で伝えられるコーチを育成したいと考えました。
知識だけでは人は変われない?「引き出す」力がカギだった
——他の健康・医療系の資格とは何が違うのでしょうか?舘さん:多くの健康系資格は「正しい知識を伝える」ことに重点が置かれています。一方、当講座が重視しているのは「その知識をどう行動に結びつけるか」という点です。
ライフスタイル医学の最新エビデンスを学ぶだけでなく、コーチングの手法を組み合わせることで、クライアント自身が主体的に変化を起こせるよう支援するスキルを身につけられます。
「教える」のではなく「引き出す」という視点が、他の資格との決定的な違いです。
お医者さんに「タバコをやめなさい」と言われてもやめられる人は少ないですよね。一方的に伝えても反発が生まれるだけなんです。自分で気づいて、自分で動きたくなるように導くことが重要です。
カリキュラムの工夫として、教科書は「後出し」にしています。動画で学んだ後にまとめを渡すことで、「自分はこんなことを学んだんだ」という実感が生まれ復習になる。最初に渡すと、買ったけど読まない本と同じで持っているだけで満足してしまうんですよね。

——講座の運営において、「ここだけは譲れない」というこだわりはありますか?
舘さん:健康・栄養の分野は情報が氾濫しており、根拠の薄い情報も多く流通しています。だからこそ、最新のエビデンスに基づいた内容を提供することを徹底しています。
何十年経っても、ライフスタイルの基本は変わりません。
基本をしっかりと習得することで、新しい情報に惑わされず自分で解釈できるようになります。受講生が実践する際に、自信を持って「根拠のある支援」ができるよう、学習内容の信頼性を最優先に考えています。

ライフスタイル医学の「6つの柱」とは
——「6つの柱」について教えていただけますか?舘さん:運動・栄養・睡眠・ストレス管理・社会的つながり・危険な物質の回避。これが6つの柱です。どんな健康の悩みも、必ずこの6つのどこかにつながっています。
「運動も食事も気をつけているのに痩せない」という人がいたとします。実は睡眠時間が不足していると、痩せにくくなることもあります。
他にも、人間関係のストレスが睡眠に影響したり、忙しくて運動ができなかったりと、全部つながっているんです。
——「6つの柱」を学ぶことで、どんな視点が身につきますか?
舘さん:一つひとつの健康課題を「点」で見るのではなく、6つの柱を通じて「面」で捉えられるようになることです。
相互作用を理解することで、クライアントが抱える問題の本質に気づけるようになります。「対症療法」ではなく「根本支援」ができるコーチになれるんです。
例えば、高血圧の薬として利尿剤が出ることがあります。夜中にトイレで起きてしまい、睡眠不足で逆に血圧が上がることもある。
6つの柱の視点があれば「その薬が合っていない可能性があるのでお医者さんに相談を」とアドバイスできます。知識を実践的なアドバイスに変えられる。それがこの学びの強みです。
我慢しない!「持続可能な食事」へのこだわり
——持続可能な食事プランを考えるうえで、大切にしていることは何ですか?舘さん:食事は一番身近な健康習慣ですが、カロリー計算や制限ばかりを中心とした従来のアプローチは、短期的な効果はあっても長期的な継続にはなりにくいです。
シンプルに言えば、お菓子をやめたら大概痩せるんですよ。でもただ「やめなさい」と言っても絶対やめない。チョコレート菓子をイチゴに置き換えるだけで、カロリーも砂糖の量もグンと減ります。
イチゴを食べたときと、チョコを食べたときの幸せは、実はそんなに変わらない。そう伝えると「それならできるかも」と思ってもらえるんです。
当講座では、その人の生活習慣・文化的背景・価値観を尊重しながら、無理なく続けられる食のあり方を一緒に設計することを一番大切にしています。

——受講生の方が本講座を選ぶ一番の理由はなんだと感じていますか?
舘さん:「知識とコーチングが同時に学べる」という点を挙げる方が最も多いです。ダイエットしたくても何が正しいのか分からない、食事管理をしても長く続かない。そういった経験からたどり着く方が多い印象ですね。
また、健康系の資格はすでに持っているけれど、クライアントの行動がなかなか変わらないことに悩んでいる方もいます。「何を伝えるか」だけでなく「どう関わるか」を体系的に学べることが、選ばれる最大の理由だと感じています。
活躍の場は無限大—— あらゆる現場で活きる知識とスキル
——受講後はどんな場面で活躍できますか?舘さん:活躍の場は非常に多岐にわたります。パーソナルトレーナー・管理栄養士・看護師・薬剤師といった医療・健康分野の専門職の方が、既存の業務にコーチングの視点を加えるケースが多いです。
また、企業の健康経営担当者や、小中高の先生にも役立つ知識・スキルが身につきます。
先生の場合、勉強についてこれない子の親に「朝ごはん食べさせていますか?」と伝えられるようになる。実は勉強が苦手な子は栄養の問題があることもあります。
うつ病による離職も、近年増えている社会問題です。うつ病などの健康被害の背景には食事・睡眠・運動・人間関係など、6つの柱に行き着く課題が隠れています。
だからこそ、この講座での学びが、現代社会にとって大切なスキルだと感じます。

舘 敬悦さんは、パーソナルトレーナーとしても活躍中
子どもの成長を実感した——受講生の変化と、続く学びのコミュニティ
——印象に残っている受講生の変化を教えていただけますか?舘さん:実際に、食生活を見直したことで「子どもの身体の成長を感じた」という声もあります。
結果が出ると、親も子も嬉しくなり、前向きに楽しく食生活を変えることができます。この話を聞いたときは、本当に嬉しかったですね。
また別の受講生は、太ってしまった旦那さんが体重計に乗らなくなったので「体重計を3台買って、風呂場・玄関・寝室に1台ずつ置く」という作戦を考えました。「乗りなさい」と言うのではなく、自然に乗れる環境を作る。
自分で考えられることが大切で、これがコーチングの力なんです。
——資格取得後のサポートはありますか?
舘さん:メルマガでの配信とオンラインでのフォローアップミーティングを行います。常に最新の情報をアップデートして、大切な人々の健康をサポートしてほしいです。
健康の知識は日々更新されていきます。たとえば、最近のアメリカでは、従来とは異なる健康指針も注目されており、脂質や炭水化物に対する考え方も変化してきています。
一度関わったら一生の付き合いをしたいんですよね。
家族に1人、地域に1人——病気にならない社会をつくる
——今後の展望をお聞かせください。舘さん:日本は超高齢社会を迎え、医療費の増大や生活習慣病の蔓延は社会全体の課題となっています。これからの時代に必要なのは、「病気になってから治す」医療だけでなく、「病気にならない生活を支える」予防・健康増進の専門家です。
日本は長寿国ですが、寝たきりで過ごす人も多い。極端に聞こえるかもしれませんが、いつまでも自分の足で歩けること。それが一番幸せだと思うんですよ。
家族に1人は、ライフスタイル医学とコーチングを融合させた専門知識を持った人がいる。そして家庭から、社会をより良くしていくことに貢献できればうれしいですね。将来的には海外での展開も視野に入れています。
——最後に、学びを迷っている方へメッセージをお願いします。
舘さん:「健康に関わる仕事をしているのに、クライアントがなかなか変わらない」「自分自身の生活習慣も、なかなか変えられない」——そんなもどかしさを感じたことがあるなら、ぜひ一度、私たちの講座の扉を叩いてみてください。
「変わりたいけど変われない」と思っている方がほとんどだと思います。でも変わることは、実はそんなに難しくない。料理研究家だって最初は料理ができなかった。好きになり、得意になり、人に教えられるようになった。
健康の分野もまったく一緒です。お医者さんや管理栄養士さんだけが健康を広められるわけじゃない。正しい知識とコーチングスキルがあれば、誰でも家族・地域・職場で活躍できます。
学びに遅すぎることはありません。あなたの「変えたい」という気持ちは、誰かの人生を前向きにする力になります。
——本日は、ありがとうございました。
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