スマートフォンの普及で長文を読む機会が減り、読書離れが叫ばれる時代。
そんな中、読書の普及を願い、読書と対話を通じた新しい学びの手法を広げている協会があります。
1冊の本を参加者全員で分担して読み、それぞれが「著者になりきって」プレゼンして共有した上で、ダイアローグするユニークな手法です。
2017年に発足して以来、無料公開しているマニュアルのダウンロード数は11,426件(2026年7月時点)にのぼります。
今回は、一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会(略称ABD協会)の代表理事であり、ABDの開発者である竹ノ内壮太郎さんにお話を伺いました。

一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会 代表理事 竹ノ内壮太郎氏
アクティブ・ブック・ダイアローグ®が伝える「新しい読書会」
―― 設立の経緯と、認定ファシリテーター養成講座の受講状況を教えてください。竹ノ内さん:一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会の活動そのものは2017年に任意団体として始まっており、2020年に一般社団法人として法人化しています。
その中で、アクティブ・ブック・ダイアローグ(ABD)認定ファシリテーター養成講座を受講した方は315名、さらに認定ファシリテーターの資格を取得された方は228名です。
アクティブ・ブック・ダイアローグ®(ABD)の進め方の解説や準備物、過去の実践事例をまとめたマニュアルのダウンロード数は着実に毎月増えている状況です。
アクティブ・ブック・ダイアローグ® マニュアルダウンロードはこちら
―― マニュアルを無料で公開されているのは珍しいと思うのですが、理由はあるのでしょうか。
竹ノ内さん:読書文化から生まれるコミュニティを普及させたいという思いが根底にあります。
基本的にはマニュアルを読めば無料で実践できます。
ただ、ABDをより深く理解し、一定の質でファシリテーションできるようになりたい方のために、ABD認定ファシリテーター養成講座も用意しています。
―― 事前に読んできたり、その場でそれぞれが別の本を読むような従来の読書会と、決定的に違う点はどこにあるのでしょうか。
竹ノ内さん:一番大きな違いは、参加者全員が徹底して主体的に関わる学び方であるということです。詳しい人が解説したものを、頭に流し込む形式ではありません。
アクティブ・ブック・ダイアローグ®では本の一部分を分担して読み、その人自身が「著者」になりきって発表するため、主体的に取り組めます。


著者になりきる発表がもたらす面白さ
―― アクティブ・ブック・ダイアローグ®では、発表の場を設けるそうですね。竹ノ内さん:発表の際は著者になりきって話すのがポイントです。
自分が著者になったつもりで、自信を持って「〇〇です」と言い切ってしまうイメージです。
ただ、本に書いていないこと、個人的な意見を言うのはこの段階ではNGです。

担当箇所を読み終わったら、著者になりきって発表します。
―― 初めて参加される方には難しいように感じます。
竹ノ内さん:正しいことを言おうとすると緊張してしまうものですが、著者になりきると意外と面白いです。
海外の著者の本を扱ったときに、冗談っぽく「I'm ボブ(著者名)」と言って、あとは日本語で話す方もいました。
演じる感覚で、楽しみながらやることが大前提です。
―― なりきることの面白さについて、教えてください。
竹ノ内さん:たとえば1ページから10ページまでを担当したら、そこに集中して話します。
発表時間は2分程度と短いので、余計なことを考える暇もなく、話を伝えることに向き合えます。
少し分からない部分があっても、本に書かれている内容を自分の言葉で伝えようとすることで、不思議と理解が深まっていくことがあります。
それぞれが自分の担当したページについてリレー方式で発表をすると、本の全貌が明らかになり、新たな発見につながります。
もちろん、発表する前は自分が担当した部分の内容しか分からないので、前後が「どんなストーリーなんだろう」というワクワク感もあります。
単調に説明されるだけでは頭に入りませんが、全員が著者になりきることで説得力が生まれて、頭に残りやすくなるんです。
―― とても面白い体験ですね。間違って伝わってしまう心配はないんでしょうか。
竹ノ内さん:たとえ発表の時に本の内容がしっかり網羅されていないとしても、あまり気にしません。
1冊の本を1時間半ほどでマスターするのは到底無理な話です。
著者になりきって発表し、全体で共有した後は、数名のグループに分かれて、今度は自分自身の意見や感想を述べ合うダイアローグ(対話)に入ります。
理解できなかったことも、口に出してみることで、「ああ、こういうことだったのかもしれない」と気づくことがありますね。
こうしたABDを体験した後だと、なんだか著者と仲良くなったような気分になったり、本の声が聞こえてきたりして、ちょっと難しい本も、すっと頭に入ってくるような気がするのも面白いです。

実践を通して身につける、ABDファシリテーション
―― ABD認定ファシリテーター養成講座は、無料のマニュアルとどう違うのでしょうか。竹ノ内さん:マニュアルは大まかな流れを示すものですが、ABD認定ファシリテーター養成講座では、26ページのフルカラーテキストを使って数回の実習を行います。
テキストにはABDの進行台本に加え、それぞれのプロセスの背景にある原理も説明しています。
これを手元に、一通りの流れで場を進行できるようになっています。
学んだ方が一定のレベルのファシリテーターとして、活躍できるように工夫しているのも特徴のひとつです。

―― ABD認定ファシリテーター養成講座は、2日間の対面プログラムとオンライン1日という構成だとお聞きしました。
竹ノ内さん:まずはリアルで2日間ABDを行い、夜は懇親会をします。
お互い知り合って、それ自体が一つのコミュニティになるんです。そこから2週間から1か月ほど空けてオンラインで実施します。
その間に気づいたことなどを持ち寄って、また対話ができるんです。
もともとは対面だけで始めましたが、コロナの1年ほど前からオンラインも取り入れました。コロナ禍に入ってからはオンラインが中心になっていきましたね。
オンラインは、日本中、世界中どこにいても月に一度集まれるという良さがあります。
両方の良さがあるので、対面でコミュニティをつくったうえで、期間を空けてオンラインを行う形にしています。両方の手法を学ぶことで、どちらの場合でも対応できるようになるんです。
―― オンラインとリアルで、進め方に違いはありますか。
竹ノ内さん:対面だとファシリテーターが対話の場を回しやすいのですが、オンラインは誰かが話を独占してしまうこともあります。
会話を大切にしたいので、ブレイクアウトルームを頻繁に使ったり、画面の真ん中にキャンプファイヤーの映像を流して、その前に座っているような雰囲気を作ったり。
「トーキングピース」を持った人が順番に話す形式を取り入れることもありました。
オンラインのほうが少し工夫が必要ですが、どちらも同じくらいの効果を出せます。ただしオンラインの場合、参加者・主催者ともにある程度のITスキルが必要になりますね。
―― オンライン開催では、本の分担はどうされているのですか。
竹ノ内さん:オンラインの場合は、原則として各自で本を購入してもらっています。ブログや論文などオンライン上に公開されているものを使うこともあります。
また出版社の協力を得て、本の序章部分のデータを共有させてもらうこともあるんです。
面白ければ本を買って続きをやるという流れになるときもあります。
業種も資格も問わない、広がる学びの輪
―― どのような場所で活用されているのでしょうか。竹ノ内さん:学校や企業研修、図書館、セミナーなど、さまざまな場で活用されています。
中でも一番いいなと思うのは、参加者自身から「この本でやってみたい」という声が上がって、自然とコミュニティが生まれていくパターンです。
誰かにやらされるのではなく、主体的に実践していくのが理想的です。
―― 特に反響の大きい活用事例はありますか。
竹ノ内さん:私が感じている限りでは、忙しい方々の間で活用されることが多いです。
たとえば、社会保険労務士の方同士が判例を読み合わせて対話をする場面や、医療現場で働く多職種の方々が集まって勉強する場面で活用されています。
本を介して話すことで話しやすくなり、お互いに「こういう考え方だったのか」と気づき合えます。職種や専門領域の壁を越えて、意見交換をしやすくなるんです。
―― コミュニティは、どのようにできるのでしょうか。
しかし、何度か重ねるうちに参加者が「じゃあ今度は私がやります」と手を挙げてくれて、4〜5年続いているコミュニティもあります。
オンラインならZoomなどのツールさえあればどこからでも参加できますし、資格の有無に関わらず、どなたでもファシリテーターをやっていただけます。
どんどんそういう方が出てきてくれると嬉しいですね。

資格がなくても実践できる、間口の広さもABDの魅力。
本がつなぐ人間関係と、実践への後押し
―― 認定を受けた前後で、印象的な変化があった受講生の方はいらっしゃいますか。それがきっかけで、関連する講演会に上司を一緒に連れてきてくれたんです。話し合うこと自体が楽しいという気づきを得て、職場でそれを実行し広めてくれています。
ABD認定ファシリテーター養成講座を受講された小学校の先生が、学校内でさまざまな形でABDを実践されました。
その事例を校外の教員向けイベントで発表したことをきっかけに、先生同士のABDのつながりが広がっていったと聞いています。
なお、ABDは高校の国語教科書でも紹介されています。

それぞれが発表を終えると、本についての感想や疑問などについて話し合います。
―― 一方で、課題に感じていることはありますか。
竹ノ内さん:ABD認定ファシリテーター養成講座を受けて、いざ自分の職場に戻ると、ABDを実践することをためらってしまう方もいます。
「大変そう」「周りの人を巻き込めるだろうか」といった不安を持ってしまうんですよね。
ワークショップを企画して人を集め、実施するところまで持っていくこと自体に、ハードルを感じる方が多いようです。
そこで、同じ期に受講した10名ほどのメンバーとのコミュニティや、比較的大きなFacebookグループの中で、「こんなことをしました」とお互いに励まし合ったり、誰かが企画した会に参加したりして、きっかけ作りをしています。
人材育成から教育まで。ABDが描く未来
―― 日経MJでも取り上げられるなど注目を集めていますが、読書離れという社会的背景をどのように感じていますか。竹ノ内さん:現代は何でもスマートフォンで済ませることが多くなっています。それによって文字を読むこと、人と対話する楽しさが分からなくなってきているのかもしれません。
対話ではなく、一方的に言い合うだけになってしまうことも増えている気がしています。だからこそ、しっかり本を読む習慣の入口としてABDがあればいいなと考えています。
―― 今後、社会の中でどのような役割を担っていきたいとお考えですか。
竹ノ内さん:ABDは人材育成にも活用できる、読書と対話を通じた学びの手法で、会社の社内研修で活用されることもあります。
たとえば、私自身の会社では、新入社員向けに年間50回ほどの研修機会を設けており、本の内容をB5用紙5枚にまとめて要約する力をつけたり、プレゼンしたりする練習の機会を提供しています。
最初は何を言っているかわからない状態からでも、話せるようになるのがABDの魅力です。
相手の話を聞きながら自分の考えも口に出すことで、対話のキャッチボールもできるようになるんです。これが若い人の基礎になると実感しています。
若い世代だけでなく、大人になってからの学び直しにも効果的です。
40代、50代になってもコミュニティの中で学び合うことは大切ですし、楽しみを広げることにもなりますので、そういう場を作っていきたいと思っています。

現代は要約を考えて書くという経験も少なくなっているので、貴重な学びの機会になります。

企業研修などでも、活用されています。
―― ABDが地域による学びの機会の差を補うことにもつながるというのは、どういったことなのでしょうか。
竹ノ内さん:大都市には学びの機会がたくさんあります。著名な先生から直接教わることができれば、それはそれで良いことです。ですが、地方にはそうした環境がなかなかありません。
それでも、本さえあって、コミュニティさえ集められれば、継続して学ぶことで、その分野への理解を深めていくことができると考えています。
政府の白書や説明資料など、少し読みにくいけど、しっかり作成された資料もたくさんあるので、それをABDで扱えば、都会に行かなくても、どこでも学べる場を作れると思っています。
「アクティブ・ブック・ダイアローグ」で、いつもと違う読書体験を
――最後に、ABDを始めようか迷っている方へメッセージをお願いします。竹ノ内さん:マニュアルをダウンロードしていただければ、ホームページに考え方も書いてありますので、ぜひ一度試しにやってみてほしいです。
周りでやっている方がいれば、ふらっと参加してみるのもいいと思います。やってみて面白そうだと感じたら、ABD認定ファシリテーター養成講座に参加してみてほしいですね。
仲も良くなりますし、ABDの基礎以外にも学べることが多く、満足していただけていると感じています。
――素敵なお話をありがとうございました。