目を閉じて、そっと自分の頭に手を当ててみてください。今、あなたの頭は柔らかいですか?それとも、硬く張っていますか?
「頭は、心の反射鏡」——3万人以上の頭に触れてきた一人の理容師は、そう確信しました。
難病を抱える妹に「少しでも生きていて良かったと感じて欲しい」その想いから生まれたヘッドセラピーの手技は、やがて「人に触れる意味」を問い直す一つの信念へと変わっていきました。
まず、自分の半径5メートルにいる人を幸せにすること。サロンや施術院に行かなくても、家族や周囲の大切な人を、自分の手で癒すことができたなら——
2005年に設立された一般社団法人 日本ヘッドセラピー協会の代表理事・西川聡さんに、ヘッドセラピーに込めた想いと活動について伺いました。
どう触れるか——西川さんが日本ヘッドセラピー協会に込めた想い
——日本ヘッドセラピー協会を立ち上げられた背景や、大切にされている想いを教えていただけますか?西川さん:私はもともと理容師で、多くの方の頭に触れる中で、「頭の緊張をほどくことが、結果としてその方の心や表情を本来の状態へ整えることにつながる」と感じるようになりました。そして、頭は心の反射鏡であるという確信を持ちました。
もう一つ、私の家族のことも大きなきっかけになっています。難病を持つ妹が、日々生きる力をなくしていくような状態でした。
だから「生きていてよかった」と思えるような顔になってほしかったんです。体の力が弱っている人でも安心して受けられる手技であることと、彼女自身が活力を生んでいけるような技術を、彼女の体で研究し、実践しながら作っていきました。

——触れ方へのこだわりがあるそうですね。
西川さん:大切にしていることがあって、ヘッドセラピーという手技そのものが大事というよりも、「どういうふうに触れるか」にすごく重点を置いています。
相手の存在を認める触れ方、慈しみがある触れ方であること、そして相手が本来持っている活力を整えること。技術は時代とともに変わるかもしれませんが、「人を慈しむ手の温もり」は永遠に変わらない宝物。
そんな想いを込めて、私たちはこの触れ方を「エターナルタッチ®」と呼んでいます。それがヘッドセラピーでできると思って、教え伝えています。
その疲れ、脳のせいかもしれない
——現代社会において、ヘッドセラピーの必要性をどのように感じていらっしゃいますか?西川さん:ヘッドセラピーは、脳と脊髄周りを癒す技術です。脳と脊髄は全身を統率する司令塔のような役割ですので、そこに刺激を与えることで、自律神経や体の調子を整えやすくなります。
頭を触るということは、脳そのものに間接的にアクセスすることができると思っています。現代人が疲れを感じる場所は、体というよりも脳ではないかと感じているんです。
頭部にはたくさんの神経が張り巡らされていて、頭が緊張しているかどうかは、そのまま心の状態とリンクしているとも言えます。神経系や心の状態に対して直接的にアプローチできるのが、ヘッドセラピーだと実感しています。

西川さん:もちろんです。たとえば、眉間に皺が寄りがちな方はその辺りが硬くなります。
歯を食いしばっている方は耳の上の側頭筋がガチガチだったり、眠れていない方は頭と首の境目が詰まって硬かったりします。ストレス状態が続き考えがまとまらない状態のときは、前頭部が硬くなっていたり、体の調子が悪い方は頭頂部が硬かったりするんです。
場所による頭蓋骨と頭皮の状態で、そこからその人の生活習慣や考え方、接し方といった情報が浮かび上がってきます。ずっとやってきているので、自然とそれが見えてくるんです。
現代社会において頭を整えることは、自分自身を取り戻すための純粋な作法ではないかと思っています。だからこそ、セルフケアとして、あるいは誰かを癒す手法として、もっと多くの方に知っていただきたいです。
資格の、その先へ。慈しみの手が、自分自身を好きにさせてくれる
——日本ヘッドセラピー協会ならではの特徴を教えていただけますか?西川さん:一般的に日本ヘッドセラピー協会の会員になる方は、手技を身につけてお金になる職業にする方が多いと思います。
ですが、うちは半分以上が施術者ではなく「いかに相手と深く、優しく接するか」という本質を求める方が集まっています。それは、当会がただ技術を取得するだけではなく、「触れる力」「接する力」を探求する場だからです。
介護、看護、教育関係の方、あるいは家族を何とか楽にしてあげたいという方がすごく多い。
技術を深めることで、自分自身を癒していったり、自分の在り方を見つめ直していくことを目指している方が多いというのが、特徴だと思います。

——日本ヘッドセラピー協会では、途中で目的が変わっていく方も多いのだとか。
西川さん:最初はサロン開業のために来た方も、途中で「この道を深めることで、自分自身がもっと自分らしく、自分を好きになっていける手段としてヘッドセラピーはすごくいいんだな」と思ってくれるみたいです。
そこはやはり、ただ手技やリラクゼーションを学ぶだけとはちょっと違う気がしています。
大切にしているのは、自分自身が癒されることを中心に置いて、それができてから、次は人にそれを伝えていけばいいのかなと思っています。
——何よりもコミュニケーションを大切にされているそうですね。
西川さん:どんどん会員数を増やすというよりも、寺子屋のイメージで、顔が見える人数で密にコミュニケーションが取れることを大事にしています。
日本ヘッドセラピー協会の理念である「半径5メートルの平和」というキーワードに共感してくれて、お互いに目指していきたい方向が同じ人たちと、ともに歩んでいきたいという思いです。
受講生の中から同じ想いを持った方々が集まり、現在は50名が会員として活動しています。

生徒と教師という関係だけではなく、一人ひとりとのコミュニケーションを大切にしている。
——会員になるには条件があるのですか?
西川さん:ヘッドセラピーの真髄を教えているエターナルタッチヘッドセラピストという講座があるのですが、それを受けることが条件の一つになります。
その中でさらに上を目指したいという方はエターナルタッチヘッドセラピスト・プロという最高峰の講座に進んでいただきます。
その中で私自身がその方たちと毎月お話して、新しい情報や日本ヘッドセラピー協会の活動内容をもっと知りたいと言ってくださる意欲的な方を集めています。
技術だけでもダメ、知識だけでもダメ。カリキュラムに込めた想い
——資格講座やカリキュラムの内容を教えていただけますか?西川さん:まず、解剖生理学をとても大切にしています。頭蓋骨や頭皮の構造、脳や神経の働きをきちんと理解することが技術の土台になります。
それに加えて、私たちが大切にしている「撫でる」「擦る」「押す」「揺らす」「寄せる」「つまむ」という6つの繊細な触れ方を学んでいただきます。これがとても奥深いものなので、その丁寧さを身につけていただくことに重きをおいています。

自分の頭を使って学ぶ。それは、自分の命の重みに触れる時間でもあります。
——技術だけでなく、マインドの部分も重視されているとか。
西川さん:そうなんです。ヘッドセラピーをやっているときの自分自身の呼吸、そして意識を整えること——これもすごく大事にしています。
技術だけでもダメだし、知識だけでもダメ。触れ方を意識するとき、自分の呼吸と意識が今どこにあるのかが問われてくるんです。手技を通して、そこを深めていく時間を多く取っています。
一人ひとりの手の置き方や力の入り具合を見て、その人の癖に意識を向ける。施術の姿を見ると、どこに何をしているのかが感じ取れるので、コミュニケーションを取って技術を深めています。少人数だからこそできることです。
——オンライン講座も取り入れていらっしゃるのでしょうか?
西川さん:講座の内容は、座学が全体の3分の1から半分ほど、実技が残りという構成になっています。
解剖生理学などの座学部分は対面でなくても問題ないので、オンラインで行って、実際に人に触れる実技は対面で行うという形です。同じ講座の中でオンラインの日と対面の日を組み合わせてやっているものもあります。
——ブラシなどの道具を使うこともあると伺いました。
西川さん:そうなんです。たとえばブラッシングセラピー講座では、テキストとブラシをご自宅にお届けして、画面越しに「手はこちらの方向に向けて」「もう少しゆっくり、丸みを意識して」といった形で進めることができます。
セルフケアであれば、オンラインでも十分に伝えられます。

ブラッシングは、脳に届ける一番優しい休息です。
ただ、道具を使わない素手の手技になってくると、対面の方が圧倒的にいいです。相手の頭に実際に触れる感覚は、画面越しでは伝えきれないものがありますので、そういう講座はオンラインではやらないようにしています。
いつも励みになっている手紙。ヘッドセラピーをどうしても伝えたい理由
——受講生の方で、印象的な変化があった方のエピソードを教えていただけますか?西川さん:がんで闘病されていたご親族のために、何かしてあげたいという思いで受講された方がいらっしゃいました。
1年後、その方が旅立たれた際に届いたお手紙には、「頭に触れてもらったことで、最期まで自分の尊厳を守ってもらえた。本当にありがとう」という言葉が記されていたそうです。
受講生の方からも、「半径5メートルの大切な人に、寄り添えた気がします。学ばせていただき、本当にありがとうございました」とお伝えいただき、この活動の原点を見せていただいた思いでした。
どれか一つと言われたら、そのケースが一番思い出されます。そこに全部詰まっている気がしました。

まずは、家族の頭を癒し、心を癒す。これが、ヘッドセラピーの原点です。
——人生の最後に「尊厳を守ってもらえた」という言葉は、深いですね。
西川さん:人生の最後がすごく大事だと思っているんです。
生まれた時よりも、晩年になって温かみを感じられたかどうかが、亡くなっていくときの想い出として、とても大切だと思っていて。
幼い時だけでなく、大人になってからも、家族に触れることにもう少し意識を向けていってもらえると、自分自身の人生も輝いていくのではないでしょうか。
幼い頃は、親との触れ合いはたくさんあります。しかし、思春期になると触れ合いがなくなって、次に触れるのは親の介護のときだけという方も実に多い。
その介護の場面でさえ、専門職の方に任せて自分はどうしていいかわからないという状態になります。だからこそ、少しでもヘッドセラピーに携わることで心と体の「触れ合う」時間を作っていけたらいいですよね。
そうした思いから、最近はドライシャンプーの講座も始めました。お風呂に入りたがらなくなった親御さんに清潔を保ってあげることは生きる活力になります。家族のためにやりたいという方が増えてきている印象ですね。
正しい知識と知恵を持ち、丁寧に触れることで親御さんの心に届くものがある。触れることの意味を、もっと日常の中に広げていきたいと思っています。
大切なのは「半径5メートルの平和」
——今後、ヘッドセラピーを通じてどんな社会を目指していきたいですか?西川さん:誰もが自分の手で、自分や身近な人を慈しむことができる社会を作っていきたいと思っています。特別な場所に行かなくても、家庭や親しい仲間の中でちょっと頭を整えるという習慣や文化が、日常の中で根付いていけばいいなと。

少人数制で学べるので、質問しやすい環境であることも特徴です。
日本ヘッドセラピー協会のキーワードとして「半径5メートルの平和」という言葉をとても大切にしているんですが、自分自身の周りの人たちの平和のためなら何でもいいと思っているんです。
触れることだったり、言葉をどうかけるかだったり、言葉をかけずともどう関わるか——そういうことをみんなが意識して、人として成熟していく社会を作っていく手助けを、私たち日本ヘッドセラピー協会もしていきたいという思いがあります。
頭と心を軽くする。一生ものの宝物を手にしませんか
——最後に、ヘッドセラピーや協会に興味はあるけれど、まだ一歩踏み出せていない方へメッセージをお願いします。西川さん:誰かの役に立ちたいという思いは、自分自身の人生を豊かにする種火になると思います。技術を習得することそのものは道具ですけれど、それを手に入れることで、一生ものの宝物を手にしたことと同じなんです。
まずは自分の手と心を信じてもらって、一緒に勇気を持って一歩踏み出してもらえるよう、サポートしていきたいと思っています。
——本日は、ありがとうございました。
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