でも実は、クリケットの競技人口は世界で約1億人、ファンは約10億人とも言われています。サッカーや野球と肩を並べる、超メジャースポーツです。
今、そのクリケットに大きな追い風が吹いています。2028年のロサンゼルスオリンピックにて、128年ぶりの正式競技として採用が決定。日本でも「クリケット」という言葉を耳にする日が、すぐそこまで来ています。
「まずは気軽に楽しんで、もっと本気でやってみようと思ってもらえたら嬉しいです」と話すのは、1984年に設立された日本クリケット協会で広報マネージャーを務める下村尚明さん。
競技の魅力から始め方まで、詳しくお話を伺いました。
360度どこに打ってもOK!クリケットってどんなスポーツ?
――クリケットとはどんなスポーツか、教えていただけますか?下村さん:諸説ありますが、野球の原型とも言われています。バットでボールを打ち、ボウラ―(投手)がボールを投げる点は野球と似ていますが、大きな違いが3つあります。
一つ目は、360度どこに打ってもよく、真後ろに打っても得点になるところ。二つ目は、アウトにならない限りバッターが打ち続けられること。
そして三つ目は、守備の選手の近くにボールが転がった場合、「走らない」という選択もできる点です。
また、社交性を重んじるスポーツなので、試合の合間にティータイムを挟むといった独特の文化もあります。

――試合の形式を教えてください。
下村さん:11人制で、守備側は「ボウラ―(投手)」と「ウィケットキーパー(捕手)」が1人ずつピッチに入り、残り9人はグラウンドに戦略的に配置されます。攻撃側は「バッター(打者)」が2人、ピッチに入ります。
グラウンドは楕円形で直径約130〜140m。打撃後、2人のバッターが反対側のクリース(走塁の基準ライン)まで走り切ると1点が入ります。

エンバシーカップ2025 でのバッティングシーン
守備側の返球でウィケット(3本の柱)を倒される前に、体の一部かバットがクリースを越えれば得点になります。境界線(バウンダリー)を打球が越えたら4点、ノーバウンドで越えたら6点です。
昨年10月のワールドカップ予選では、日本代表選手が残り1アウト・1点取れば勝利という場面で、真後ろにボールを打ち返して得点したシーンがありました。他のスポーツでは見られない、クリケットならではの面白さです。

「人と人をつなぐ架け橋に」——日本クリケット協会のミッション
――日本クリケット協会として大切にされている理念や想いを教えていただけますか?下村さん:日本クリケット協会は、「クリケットを通じてより多くの人が豊かなスポーツライフを実現し、人、コミュニティ、国を近づける架け橋となること」をミッションに掲げています。
バリューには、「みんなが楽しめる」「グローバル」「ダイバーシティ」「フェア」という4つの柱があります。
クリケットは子どもから大人まで、初心者でも安心して楽しめるスポーツです。現在、100か国以上でプレーされており、外国人だけで構成されたチームもあれば、日本人と在日外国人が混ざったチームもあります。

日本人も外国人も、同じルールのもとで一緒に楽しめる多様性が自然と生まれるのがこの競技の特徴です。そして、ルールを守る、仲間を重んじる、対戦相手を敬うという、フェアの心も大切にしています。
イギリスが植民地に持ち込んだクリケットが現地に根付き、爆発的に広まったという歴史があります。だからこそ、多様な文化や国籍の人が一緒になって楽しめる。それが本質的な魅力だと思っています。

2025年6月 中国女子チームと子どもたちの交流イベント
世界では超メジャー競技!文化の違いを超えたスポーツ

2025年4月末 男子U19日本代表が予選を勝ち抜き W杯出場を決めた
――世界ではどれくらい人気があるんですか?
下村さん:競技人口は約1億人、ファンは約10億人とも言われています。イギリス、インド、パキスタン、スリランカ、バングラデシュ、オーストラリア、ニュージーランドでは国民的スポーツです。
これほど巨大なスポーツが、日本ではほとんど知られていません。逆に言えば、これから広まる余地が非常に大きいということです。
――国内では、どのような方がプレーしているのでしょうか。
下村さん:国内競技人口は2025年時点で7,000人強。日本人は勿論、南アジア出身の方々、オーストラリアやニュージーランド、これらの国々のハーフの方が多くプレーしています。
男子日本代表の集合写真を見ると、「どこの国のチームだろう」と思うほど多国籍な顔ぶれに驚くかもしれません。でも、それこそがクリケットのダイバーシティの魅力そのもの。同じグラウンドで、文化の違いを超えて楽しめるスポーツです。

多国籍のメンバーのクリケット男子日本代表チーム
――普及活動としては、どのような取り組みをされていますか?
下村さん:全国各地の小学校で体験会を開いたり、6人でできる簡易版のクリケットを広めたりと、まずは触れてもらう機会を大切にしています。
また、日本に一定期間居住すれば国籍を問わず日本代表になれるルールがあり、多様なバックグラウンドを持つ選手たちが代表を強くしています。

子どもたちへの普及活動を継続して実施している
国際大会での日本代表の活躍が話題になれば、さらに興味を持つ人が増えていき、皆さんの目に触れる機会も多くなります。そうやって日本の皆さんにも浸透していくことを期待しています。
実は超かんたん!気軽に始められるクリケット
――クリケットは初心者でも楽しめますか?下村さん:もちろんです。「クリケットブラスト」という入門プログラムがあり、小学生向けのものは6人からスタートできます。
直径20〜30mのスペースにコーンを置くだけで、道具はプラスチック製のバットと柔らかいボールを使います。体育館でも実施でき、広い公園がなくても大丈夫です。
ソーシャルクリケットという大人向けの6人制のものもあります。野球を知らない人でも、「投げて打つ」という基本の動きは理解しやすいため、やってみたら楽しかったという声が多いですね。
――ルールは難しくないのでしょうか?
下村さん:「フライを取ったらアウト」「3本の棒(ウィケット)にボールをあてたらアウト」です。まずは、この2つを知るだけで試合になります。
最初の入り口としては、ルールをガチガチにせず、柔軟に緩めて始められるのもメリットです。野球ほど長い距離を走らなくていいので、運動や走ることが苦手な子も楽しむことができますよ。

ゴムボールでできる簡易クリケットもあり小学生でも安心してプレーできる
初代チャンピオンの感動。女子佐野市国際トロフィーでの奇跡
――特に印象に残っているエピソードを教えてください。下村さん:2025年6月、栃木県佐野市で開催された女子佐野市国際トロフィーでの女子日本代表の活躍です。
日本、香港、モンゴル、フィリピン、中国が参加した国際試合で、予選で敗れた格上の香港に対し、決勝で見事リベンジを果たして優勝しました。日本が香港を破ったのは史上初のことでした。

2025年の女子佐野市国際トロフィーでは 強豪香港に史上初めて勝って優勝
――女子日本代表の活躍を間近で見ていて、いかがでしたか?
下村さん:お世話になった佐野市が初めて主催してくださった国際試合で、日本が初代チャンピオンになれたことに、本当に感動しました。
女子代表は男子より日本人選手の比率が高く、日本の力がにじみ出るような、頼もしい笑顔が印象的でしたね。日本の選手たちが確実に世界と戦える力をつけていると実感した瞬間でした。

女子佐野市国際トロフィーでの投球シーン
128年ぶりの五輪復活。クリケットに吹く強烈な追い風
――クリケットがオリンピック採用されてから、反響はいかがでしたか?下村さん:2023年秋の発表直後、日本クリケット協会公式ホームページへのアクセスが急増しました。記者会見もあり、大きな反響がありましたね。
日本人にとって、オリンピックというキラーワードの力は凄まじいです。オリンピックで採用されたことは普及にとって強力な追い風になると確信しています。
――普及面でも変化がありましたか?
下村さん:JOC(日本オリンピック委員会)への正式加盟が実現し、高度なコーチングプログラムを学べるようになりました。このプログラムではコーチ全般に必要なスキルを学べるので、指導者のレベルアップにもつながります。
育成のスキルが上がれば、強い選手が育つ。選手が国際大会で活躍すれば、メディアに取り上げられる機会も増え、さらなる認知度向上につながるという好循環を期待しています。
広がる「クリケットのまち」——気軽に楽しく始めてみよう
――日本国内で、クリケットが根付いている地域はありますか?下村さん:栃木県佐野市には日本唯一の国際クリケット場があり、2009年から地元小学校への体験訪問を続けています。他にも宮城県・東京都昭島・千葉県山武市・大阪府貝塚市などでジュニアクラブが活動中です。
横浜の老舗スポーツクラブYC&ACでは、創設当初からクリケット教室が続いています。在日外国人のお子さんも多く参加していて、グラウンドに行けば自然と多文化交流が生まれる環境があります。

佐野市国際クリケット場の様子
――興味を持った方へメッセージをお願いします。
下村さん:2026年秋に、愛知県で開催されるアジア競技大会でもクリケット競技が行われます。日本代表も参加見込みでテレビ中継も行われる予定なので、注目していただき、面白そうだと思ったら、ぜひ体験会へ。
チームスポーツとして仲間と共に戦う楽しさも味わえる
「いつでも、どこでも、誰でも」をモットーに、大人も子どもも参加できる、気軽に楽しめるプログラムを用意しています。
まずは、日本クリケット協会の公式ホームページからお気軽にお問い合わせください。いきなり競技を目指さなくて大丈夫。クリケットの楽しさを知っていただけるだけで十分です。
10年後、クリケットが日本の日常に
――10年後、クリケットがどのような存在になっていてほしいですか?下村さん:日本クリケット協会には、2023年から2027年の5か年戦略「開花」があります。「世界での活躍、リーチの拡大、社会的価値の創造、プロ化などにより、日本のクリケットが開花を迎える」というビジョンです。


スターの育成や施設の改善、学校との連携強化、女子選手の育成など、さまざまな目標を掲げています。
日本クリケット協会ではこれらを少しずつ実現し、クリケットに親しんでくれる方や、体験してみたいという方を増やしていきたいと思っています。
戦略は5年ごとに更新されますが、ジュニア選手の育成という骨の部分は、今後も変わらない軸です。そこにオリンピックという大きな追い風が加わります。
10年後には、日本のスポーツシーンにクリケットが当たり前のように存在している——そんな未来を目指しています。
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