幼児教室の運営や、幼児教育に関する出版・講習・調査研究などを事業内容とし、東京・四谷を拠点に、国立大学附属小学校の受験を中心とした指導を行っています。
指導の陣頭に立つのが、代表理事の藤田和彦氏です。
藤田氏が代表理事に就任したのは2019年。それ以前から一講師として現場に立ち続け、就任後は「合格」そのものよりも、子どもが学びに前向きに取り組めるかどうかを指導の軸に据えてきました。
小学校受験は中学受験・高校受験に比べて情報が少なく、多くの保護者が手探りで準備を進めているとも言われます。
何を優先すべきかわからないまま迷いながら日々の学びを重ねる保護者に対し、藤田氏は指導を通してどのような考え方を示そうとしているのか。その原点になったという幼少期の経験や、今後の展望についても伺いました。
塾に通わず東大合格。9歳から人に教えていた原点

一般社団法人小学校受験協会 代表理事 藤田和彦氏
――藤田代表の指導スタイルの土台には、独自の学び方で東京大学に合格した、自身の経験があるそうですね。
藤田代表:私自身は塾に通ったことがないので、既存のやり方にとらわれずに学びへのアプローチを組み立てられている部分があるのかもしれません。
独自の学び方が、現在の指導方針である「合格のための手段としてだけでなく、学ぶこと自体を楽しんでほしい」という考えの原点になっています。
――ご自身で学ぶだけでなく、幼い頃から人に教える経験もされていたそうですね。
藤田代表:初めて人に教える立場になったのは9歳、小学3年生のときです。
わからないところがあるクラスメイトから「藤田くん」と呼ばれては教える、ということを中学3年生まで続けていました。
教えることで「自分の中の学びを組み立て直せる」という感覚は、その頃からありました。
協会との出会い、講師から代表理事へ

藤田代表は常に講師として教室で子どもたちに寄り添う
――小学校受験協会には、いつから関わっていらっしゃるのでしょうか。
藤田代表:協会が設立されたのは2016年ですが、当初はまだ具体的な活動があまりできていない状態でした。
私が講師として関わり始めたのは2017年3月で、2019年5月に代表理事に就任しました。
――指導を重ねるなかで、協会の役割をどのように考えるようになりましたか。
藤田代表:小学校受験は、中学受験や高校受験と比べて情報が少なく、特殊な面もある領域です。
小学校受験を、小学校以降の学習を先取りする「早期教育」のようなものと捉える方もいらっしゃいますが、小学校で習う国語や算数の問題が解けるからといって、小学校受験の課題に正解できるとは限りません。
本質は、より基礎的な考え方の理解を目指していくものなのですが、中には、そうした理解のないままに、過去問で出題される問題が解けるようになるテクニックを、膨大な演習量で習得させるケースも見受けられます。
こうした中で、私たちは「合格することだけを目的とした指導でよいのか」と考えるようになりました。
就学前のお子さまにとって大切な学びの時期だからこそ、受験の先も見据えた教育のあり方を示していきたいと思ったのです。
――受験の先を見据えて、どのようなことを大切にされていますか。
藤田代表:学びが目先の合格だけで終わらず、その先の人生にもつながってほしいと考えています。
ご家庭と志望校とのご縁をつなぐことは、協会の大切な役割です。
同時に、受験を通じてご家庭の教育観がはっきりしてくることや、お子さまが主体的に学び続けられるようになることも、合格と同じくらい大切にしています。
合格をめざすだけでなく「学びを好きになること」を大切にする理由

小学校受験協会の講習
――小学校受験協会が、指導において大切にしていることを教えてください。
藤田代表:一番大切にしているのは、肯定的な学習観を育むことです。
小学校受験期って、いわゆる学び始めの時期なんですよね。
この時期に、勉強を「苦しいもの」「大変なもの」と捉えてしまうと、その後どこの小学校に通ったとしても、学ぶことを負担に感じるようになってしまいます。
もちろん、合格をめざした指導も行っています。
そのうえで、試験の傾向や対策に偏りすぎず、受験が終わったあとも「勉強って楽しいな」と思えることを大切にしています。
――子どもが学びに前向きになるためのポイントはありますか?
藤田代表:子どもが学びを前向きに捉えられるようになるには、お父さまやお母さま、ご家庭自体が勉強に前向きな捉え方を持っている必要があります。
小学校受験協会は、合格するために必要な方策を取るというよりも、ご家庭の学習観をより前向きなものにしていく「きっかけの場」でありたいと考えています。
受験が終わったあとも、お子さまが自ら学びに向かう習慣を身につけられることが大切だと思っています。
もちろん、小学校受験では、姿勢や言葉遣い、ペーパー問題に取り組む力なども合否に関わりますから、そうした基本も大切にしています。


「夏の預かり学習」清水先生による「パターンブロックを使った線対称の理解」の授業
――受験に必要な力を育てながら、学ぶ楽しさも感じてもらうために、どのようなことを心がけていますか?
藤田代表:「姿勢を整えて座りましょう」「丁寧な言葉遣いでお行儀よく振る舞いましょう」といった指導や、ペーパー学習はもちろん行っています。
ただ、行き過ぎてしまうと、教室に行きたくないという気持ちにつながります。
だからこそ、お子さまに「この場所は楽しい」と感じてもらうことも大切にしています。まるでお笑いライブに来ているのかと思うくらい、教室が笑いに包まれることもよくあります。
小学校受験・指導現場のリアル|「親の受験」というバランスの難しさ

――日々の指導のなかで、難しさを感じるのはどのような点ですか。
藤田代表:お子さま自身が「絶対にここに行きたい」と思っているケースは多くはないため、保護者とお子さまの温度差が、指導をするうえでの難しさにつながることがあります。
実は、小学校受験は実質的に「親の受験」と呼べる側面が強いんです。
子どもたちも、もちろん自我を持った、ひとりの人間です。ただ、志望校を決めるきっかけの多くは、お父さまやお母さまにあります。
――お子さま一人ひとりの成長に合わせて指導するうえでは、どのような難しさがありますか。
藤田代表:子どもの発達のスピードには、当然ながら個人差があります。早い時期から力を伸ばせるお子さまもいれば、年長になってもまだ理解が追いついておらず、これから伸びていくお子さまもいます。
しかし受験の日程は変わりませんから、決まった時期までに一定の力をつけなければなりません。
本来なら無理をさせずにゆっくり伸ばしていけるはずのところを、ある意味で子どもに無理をさせてしまっている部分もあるかもしれない。
そのバランスの調整が、非常に悩ましいところです。
――そうした悩みを抱える保護者の方には、どのようなサポートをされていますか。
藤田代表:小学校受験の悩ましさに向き合うため、協会ではレギュラークラスに通う年中・年長家庭向けに、月1回程度のオンライン勉強会や希望者向けの個別面談を実施しています。
そこで、一人ひとりの迷い、悩み、不安を一緒に受け止め、何が必要かを共に考えるのです。
受験対策だけでなく、親子関係の構築にも、真摯に対応します。
また、授業後には毎回15〜20分ほどの時間を設け、その日の授業内容を踏まえて家庭で意識してほしいポイントを共有しています。
小学校受験は、「お教室」だけで完結するものではありません。
だからこそ、保護者の方々とも密にコミュニケーションを取りながら、ご家庭でどのようなことを意識して取り組めばよいのかを、わかりやすく伝えています。
小学校受験の教室選びの基準と国立小受験における「抽選」という現実

――多くの保護者が、お受験教室・幼児教室の選び方を知りたいと感じているのではないでしょうか。
藤田代表:小学校受験対策をしている教室を大きく分けると、複数の教室を展開している大手の教室と、個人の先生が指導をされている個人教室に分けることができます。
大手の教室は、模試の開催などを通じて受験情報を豊富に持っています。
ただ、同じ教室でも、先生によって指導の仕方や子どもへの向き合い方に違いが出るなど、属人的な部分は大きいようです。
大手か個人かにかかわらず、通いやすさや、先生と子どもの相性が大切です。
近くに相性の良い先生がいて、地域に根付いた実績のある個人教室であれば、そこがご家庭に合う場合もあると思います。
――大手教室と個人教室、それぞれに一長一短があるのですね。
藤田代表:さらに教室選びでは、「志望校に合わせた学びができるか」が特に重要です。
中学受験や高校受験も学校によって出題傾向は異なりますが、テストの点数や偏差値、内申点といったわかりやすい指標をもとに対策を立てやすい特徴があります。
ところが、小学校受験では学校ごとに試験の内容(科目)が異なり、選考の視点や評価方法についても学校ごとに特色があります。
そこで、お受験教室・幼児教室選びの基準は、志望校の状況によっても選び方が変わってきます。
「特定の学校に絶対合格させたい」という場合は、その学校とのつながりが強い、あるいは志望校に特化した教室を選ぶ必要があります。
――国立小学校を志望するご家庭には、どのようなことを伝えていますか。
藤田代表:小学校受験協会では、主に国立・都立小学校を対象とした講習を行っています。
国立小学校を志望するご家庭には、私立とは異なる現実を早い段階から伝えています。
国立小学校では、学校や年度によって出願後に抽選が行われ、受験の機会を得られない場合があります。
そのため、国立小学校をめざすご家庭からは、「せっかく頑張っても、抽選が通らなかったら意味が無いのでは……。」というご相談もいただきます。
そこで小学校受験協会では、万が一抽選によって受験の機会を得られなかったとしても、「この学びは本当に大事だった」と思っていただける指導を心がけています。
合格実績を前面に打ち出すのではなく、抽選という不確実な現実も含めて率直に伝える姿勢が、入会前の段階から保護者との信頼関係を築く土台です。
――私立小学校向けの教室と併用するご家庭もあるのでしょうか。
藤田代表:難関私立小への合格を目指すご家庭の中には、ダブルスクール・トリプルスクールで、志望校に特化したお教室と当校を併用して学ぶご家庭もありますね。
教室に通うなかで、学ぶ習慣を身につけたり、学ぶことの楽しさを知ったりする経験そのものが、お子さまの将来につながっていくのだと思います。
小学校受験協会がこれから広げたい、学びとつながりの輪

――協会としての活動は、現在どのような状況にあるのでしょうか?
藤田代表:現在は、ほかの教室の先生方と少しずつつながりを築いているところです。
たとえば、志望する小学校の近くにある教室をご紹介するなど、相互に紹介し合うこともあります。
ゆくゆくはこのネットワークを強化して、困ったときには小学校受験協会とつながりのある教室であれば安心だと思ってもらえるような活動をしたいと考えています。
――すでに別の法人との連携も始まっているそうですね。
藤田代表:クロワール幼児教室の代表である江藤真規先生が、小学校受験協会の理事を務めており、実質的な連携が続いています。
私自身が運営を担っているのが、小学生向けクラス「エジソンクラブ アドバンスクラス」です。
ここには、協会を経て卒業した子どもたちも多く通っています。
エジソンクラブアドバンスクラスの詳細はこちら
今後は、小学校受験協会として、幼児教育や小学校受験塾のコミュニティも広げていきたいと考えています。
――小学校に上がったあとの学びの接続についても、考えられているのですね。
藤田代表:受験のためだけでなく、幼児期から中高生まで、学ぶ楽しさを感じられる環境をつくりたいと思っています。
「勉強って楽しいよね」を合言葉にできれば、教育事業に携わる者として本望です。
また、小学校受験協会の理念や考え方が広く浸透し、たとえ間接的にでも業界全体の指導の質が上がっていくことが私の願いです。
私たちは、有名塾というわけではありませんし、協会といっても活動もこれからです。いずれは保護者の方だけでなく、他の教室の先生方からも意識してもらえるような存在になれればと考えています。
藤田和彦代表が描く、小学校受験の先にある学びの未来
小学校受験協会は、志望校への合格をめざすとともに、受験を通じて子どもと家庭が前向きな学習観を持てるようになることを大切にしています。国立小学校受験の指導現場では、「親の受験」という構造の難しさや、抽選という不確実性にも向き合いながら、一つひとつの家庭、一人ひとりの子どもとの関係を丁寧に築いていく。
その積み重ねの先に、藤田代表が見据えているのは、さまざまな教室がゆるやかにつながり、互いに学び合いながら、業界全体の指導の質が高まっていく未来です。
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しつけや学習の指導と、教室を楽しい場所にすることの両立。一見相反する2つを同時に成立させようとする姿勢が、協会の指導方針の軸になっているようです。
取材中の藤田代表は、終始明快に語りながらも、その語り口はとても和やかでした。時に笑顔を見せ、時にふと考え込むような表情を挟みながら語る話しぶりは実に豊かで、思わず引き込まれます。
代表の人柄とコミュニケーション力の高さこそが、子どもたちに「まるでお笑いライブに来たみたい」と感じさせる指導の源なのかもしれません。